樹木医の手記

北の木もれ日「カツラ」

2016.08.31

 今からちょうど10年前のことになります。

 あるご縁で北海道新聞社さんから記事の依頼がありました。
私を含めた樹木医3人で交代しながら各人思い思いにコラム記事の原稿を書いて欲しいということでした。

 一般の人が、普段樹木などに対して「解っているよ」と思っていそうなことで、実は「専門家(樹木医)から見たらこう見えるのですよ」的な内容だと、読者も楽しみながら読むことができると思うので、そんなタッチの原稿が欲しいということで、書いた記事は毎回日曜版に載せるということでした。

 私にそんな記事が書けるのか心配でしたが、考えている間もなく記事の企画は走り出してしまいました。

 当時は本当に専門家(樹木医)が書いた記事になっていたか心配でしたが、しまっておいた当時の記事を見つけて久しぶりに再読してみたところ、今でもなかなか新鮮で興味深い箇所があることを発見しました。

 そこで、まだこの記事を読んだことがない皆様をはじめ、一度読んだことがある皆様にももう一度ご覧になっていただきたいなと思いました。

 皆様から読んだ後の感想などお聞きできませんが、当時は決められた字数の中で、それなりに一生懸命書いていたことを今思い出しております。

<北の木もれ日「カツラ」 平成18年8月20日掲載>

 日本の名木といわれる樹木のひとつに、カツラがあります。

 一科一属二種で、カツラ(シダレカツラを含む)と本州中北部に生育するヒロハカツラのみという珍しい樹木ですが、道内では湿った沢筋にごく普通に見られます。中国にも近い種類のものがありますが、日本のものが有名で、英語でもカツラ・ツリーで通用するほどです。ハート形をした独特な葉の形と、その均整の取れた葉の付き方は世界でも称賛されており、多くの植物園や公園に植栽されています。

堂々とそびえたつカツラ並木=後志管内真狩村

堂々とそびえたつカツラ並木=後志管内真狩村

 カツラの呼び名は古い時代からあり、「古事記」では香木と表現されています。葉は青いままで匂いませんが、秋に黄葉して落葉する時期には良い香りがします。このため「香出(かつ)」から「カツラ」と呼ばれるようになったと思われます。東北地方のある地域では、葉を乾かし粉にして抹香を作るため、「マッコウノキ」、「オコウノキ」、「オコウギ」などと呼ぶこともあります。

 北海道の落葉樹の中でも特に「巨木」となることで知られています。今でも山すそや谷沿いには直径二メートルを超える伐採痕が見られ、往時の様子がしのばれます。巨大さゆえに一般の家庭に植栽する場合はよく考える必要があります。

 シラカンバのように群生することはなく、孤高に一生を終えていきますが、後志管内真狩村に北海道の名木美林に選定された「カツラ並木」があります。自然界ではありえない美しさには感嘆せずにはいられません。今時期に見るカツラ並木は、みどりも熟していて堂々と見えますので、旅の途中に立ち寄って見ても見応えがあると思います。

 種子による繁殖の機会は少なく、主に天災によるがけ崩れの後に、先駆者として侵入できた場合に限られます。

 そうして根を付けることができた固体はその後、主幹の根元から複数の枝がたくさん出て、これも幹になって育ちます。やがて大木になり、親株から子株へ、孫株へと世代交代しながら、種子無しでも千年以上生存を続けられると考えられています。

 人間ももう少し長生きできないか、この木にあやかりたいものですね。

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